コラム
2018.3.15 木曜日これからのフィットネス指導者への期待
(2)お客様の要請に応える
もちろん、お客様はフィットネス指導者に人生相談の相手を期待しているわけではありません。フィットネス指導の時間には、「先週は何か特別なことはありましたか」とか「お孫さんはお元気でしたか」などと世間話から入るのは自然だとしても、レッスンが始まったら、お客様の要請に応えることに徹底すべきでしょう。
当然のことながら、「要請」の内容については、お客様との間で認識を共有していることが必要です。では、そもそも、「お客様の要請」はいつ、どのような時点でフィットネス指導者と共有されることになるのでしょうか?
フィットネス指導者がお客様から最初に指導を依頼された時でしょうか?
フィットネス指導者とお客様とが認識を共有して、「トレーニング計画」を立てた時でしょうか? あるいは、日々の指導の中で、お客様が具体的な依頼をしてきた時でしょうか?
いずれも、否です。
確かに、お客様はフィットネス指導者に対して、「このようなトレーニングをしたい」とか「トレーニングによってこのような身体になりたい」とか「いつまでも元気でいたい」といった具体的な目標を伝えるかもしれません。
もちろん、お客様が発した言葉は本心から発せられるものであり、そこには嘘はありません。しかしながら、それはお客様が抱える問題の本質とは必ずしも一致しません。
そもそもの問題の本質は、お客様本人にも気づかないことがほとんどですし、もしそれを自覚していたとしても、それをフィットネス指導者に伝えたりはしません。というよりも、そもそもの自分の問題をフィットネス指導者に解決してもらおうなどとの思惑からフィットネス指導を受ける人など皆無だと思った方がよいでしょう。
つまり、お客様の要請は、フィットネス指導者がその要請を見極めて、お客様が抱える問題の本質に気づいた時に初めて共有される可能性が生まれるのです。
であれば、フィットネス指導者はお客様の要請をどのように見極めて、どのように応えたらよいのでしょうか?
その根幹はお客様に寄り添うことだということは先に述べました。また、お客様が抱えている問題を洞察する(直感的に見抜く)ことが大切だということも述べました。さらには、お客様がトレーニングを受けるのは「ここに来てこの人と時間を共有することを楽しく思う」と感じることによるのだとも述べました。お客様は、自身の要請を口にすることはありませんが、トレーニングの間中ずっと、心地よい状態を感じようとしています。
つまり、これらに尽きるのです。
お客様の要請を見極めるためにフィットネス指導者が行うべきことは、
① お客様が抱えている問題を洞察する。
② トレーニングを心地良く感じてもらうように働きかける。
③ その時々の瞬間にお客様が何を望んでいるのかということに関心をもつ。
三番目の言葉が「関心をもつ」となっていることに注意して下さい。
それぞれの瞬間に何を望んでいるのかなどということは、ほとんど口にすることはありません。ましてや「何をお望みですか?」などと問いかけられても、答えに迷うことでしょう。
お客様に問いかけたり質問したりしても、答えは返ってきません。お客様が何を望んでいるのかに関心をもつということが、フィットネス指導者ができる最大のことなのです。
中村 好男(なかむら よしお)
早稲田大学スポーツ科学学術院教授、専門はスポーツ科学。JWIアドバイザー、日本スポーツ産業学会理事・運営委員長、Wasedaウェルネスネットワーク会長。