コラム

2018.1.9 火曜日

人を変えるためのアプローチ(1)

人を変えるためのアプローチの仕方には、いくつかの考え方があります。それぞれ、どのようなアプローチによって何を変えようとしているのか、あるいはどのように変わっていくのかについて整理し、なにがフィットネス指導者にとって大切なアプローチといえるのか、考えてみましょう。

 

  • 身体への操作

これは、医療の現場では一般的な手法で、投薬や外科的な処置によって身体の状態を物理的に改変することです。フィットネス指導者のアプローチとしては、マッサージや整体などがそれにあたります。たとえばマッサージで肩が楽になるなど即効性がある場合が多いのですが、その場限りになることが多いので、これだけでは人は変わりません。

 

  • 教える

もっとも代表的なアプローチです。しかし、「教える」という方法は、「それができないのは、当人に知識がないか、あるいは知識レベルが低いからである」と前提していることに注意が必要です。

もちろん、子どもが良識ある大人へと成長する過程では、義務教育をはじめとした教養教育のカリキュラムに沿って文字通り「教える」ことが効率的です。しかし成人にとって、自分ではその状態を変えることができないという場合、「知識がないか、あるいは知識レベルが低い」からではないことがほとんどなので、教えればよいという考え方ではうまくいかないことが多くあります。

とくに、フィットネス指導者の指導を受けようと、決して安くはないお金を払って訪れるお客様は、教養の高い方も多いので、知識レベルが低いという前提は成立しません。いまはネットであらゆる情報が簡単に入手できる時代です。フィットネス指導者が教えようとすることは、お客様はすでに知っているか、あるいは教えても伝わらないことがほとんどだと思った方がよいでしょう。

 

  • 諭す

諭す(さとす:よく言い聞かせて分からせる)というアプローチは、「教える」というアプローチを目下の者に対して行うものです。子どもに対しては、このアプローチを用いることが多いようです。もちろん、子どもに対してでも「諭す」という態度は感心しませんが、成人に対して使うのは多くの場合は非礼に当たります。

しかしながら、高齢者への運動指導の現場では、時として「諭す」というアプローチが使われてしまうことも多いので、気をつけましょう。とくに、認知症を患った高齢者に対して「理解が悪い」と勘違いして諭すようなケースもありますが、この方法によってうまく解決することはまれだといえます。

 

  • 強制する

アプローチの仕方の一つとして念のために書きましたが、このアプローチは決して使ってはいけません。

たとえば、介護予防のための運動指導の現場では、参加する高齢者は自らの意志で来訪するというよりは、介護サービスを受けるための義務として参加しているケースもあります。「これをやってもらわないと困ります」というような言葉で運動を強制するケースもあることでしょう。

他人に何かを強制する人は、自分自身では強制していることには気づいていません。たとえば、社内やクラブ内、介護予防の現場など、自分の周りにそのようなケースがないかどうか、気をつけていただきたいと思います。

くり返しますが、フィットネス指導者はお客様に対して、決して強制してはいけません。

 

○変わるように仕向ける

ここで強調したいもっとも重要なアプローチが、「変わるように仕向ける」という考え方です。人を「変える」のではなくて「変わる」のです。では、どのようなときに人は変わるのでしょうか。

たいていの場合、無意識にいつの間にか、あるいは自分で気づいた時に、人は変わっています。その場合、「言われて、やってみて、納得して、気づく」というプロセスを経るのが普通です。ですから、フィットネス指導者が何かを示唆してお客様が「気づく」というケースがあったとして、その間にお客様自身が行動し納得していることが必要です。

 

お客様自身が気づき、変わるように状況に仕向けるには、フィットネス指導者としてどのような働きかけをすればよいのでしょうか。

ここで誤解のないように注意しておきたいのは、「仕向ける」という表現を使ってはいますが、これは「フィットネス指導者が思うような姿になるように仕向ける」という意味ではありません。もしそれができたとしたら、そのフィットネス指導者はお客様を操作したことになってしまいます。決してやってはいけません。

フィットネス指導者が何らかの「仕向け」をしたとしても、結果としてどのようになっていくのかはお客様次第なのです。人を操作することはできません。お客様は自らが気づいたように変わるだけなのです。

では、お客様が自ら気づくという状態に導くためには、どのようにしたらよいのでしょうか。(つづく)