コラム

2018.3.1 木曜日

これからのフィットネス指導者への期待
(1)お客様に寄り添う

何度も申し上げていることですが、これからのフィットネス指導者に期待されるのは、「お客様に寄り添う」という姿勢と態度です。

 

お客様のほとんどは、「痩せたい」とか「検査値を正常にしたい」とか「死ぬまで健康でいたい」という具体的な目標を思い描いてフィットネスクラブの会員になることでしょう。フィットネスを続ける理由として「健康維持のため」という方も多いですし、「いい健康状態を実感しているから」という方も少なくはありません。それは本当の気持ちであり、疑いの余地はありません。

 

しかし、これらの具体的な目標は、フィットネスクラブの会員になるという最初の行動のきっかけに過ぎません。その後に、お客様がフィットネスを続けるという行動をとるのは、「ここに来てこの人と時間を共有することを楽しく思う」と感じるからなのです。

 

心地よい状態こそが継続したおつきあいの源泉になるのです。もしもフィットネス指導者による指導が不快に感じるものだとしたら、別のフィットネス指導者やクラブに切り替えるか、フィットネスを止めてしまうことは間違いありません。

 

話題を変えてみましょう。お客様が「孫が来るから」とか「親戚に不幸があって」と言ってトレーニングの予約をキャンセルしたとしたら、あなたはどのように感じるでしょうか。

 

普通は、「それはやむを得ない」として気持ちよく了解することでしょう。でも、よくよく考えてみて下さい。「フィットネスがあるから私は元気を保てるのだ」と好意的に評価してくれるお客様がいたとしても、「孫が来る」とか「親戚の不幸」という理由があればトレーニングを止めることができるのです。

 

つまり、なんらかの緊急事態や特別な出来事があれば、そちらの方がフィットネスより優先される。休んだからといって「死ぬまで元気でいる」という目標がなくなるわけではありません。「元気でいる」ということ自体が、そのお客様にとっての人生の喜びの一部であるように、孫や親戚との付き合いもまた、そのお客様にとっては欠かせない要素なのです。

 

もし、あなたがお客様から、「孫が来るから」とか「親戚に不幸があって」といってトレーニングの予約をキャンセルされた時、お孫さんに会う時のお客様の笑顔や喜びを想像できたとしたら。不幸に遭遇した親戚とお客様の関係や、その不幸がお客様にとってどれほどのインパクトをもつものなのかということに思いを馳せることができたとしたら。それが「お客様に寄り添うこと」の第一歩であるといえるでしょう。

 

もし、キャンセルの連絡を受けた時に、キャンセルされた空き時間をどうやって埋めようかなどと、自分のことばかりに思いを向けるようでしたら、フィットネス指導者をやめた方がよいでしょう。

 

中村 好男(なかむら よしお)

早稲田大学スポーツ科学学術院教授、専門はスポーツ科学。JWIアドバイザー、日本スポーツ産業学会理事・運営委員長、Wasedaウェルネスネットワーク会長。