コラム
2018.2.15 木曜日人を変えるためのアプローチ(4)
○相手の言葉を使う
例をあげてみましょう。
お客様が、「最近太ってきたので何とかしたいのです」と語ったとします。その時にフィットネス指導者が、「痩せたいのですね?」と返答したとしたらどうでしょうか? 「太ってきた…何とかしたい」と「痩せたい」、両者は同じ意味でしょうか?
おそらく、ほとんどのケースでは同じ意味として誤解もなく会話が続くと思いますが、厳密にいえば同じではありませんよね。
もしかしたら、会話が次のように続くかもしれません。「痩せたいというわけではなくて、せめてお腹周りの贅肉が取れるだけでも…」、あるいはまた、「痩せたいというよりも、水着が似合う体型になりたいのです」、「血中コレステロールが高いと言われましたので…」。お客様のいう「太ってきた…何とかしたい」の思いの背後にある問題は、この三者では微妙に異なります。
この例でいうと、同じ言葉を使うように普段から心がけておくことで、認識のくい違いを防ぐことができます。たとえば、「痩せたいのですね?」と言う代わりに、「何キロくらい太ったのですか?」、「どこが太ってきたのですか?」と、お客様が発した「太った」という言葉を残しておけば、お客様が提起しようとした問題の源からは外れにくくなります。場合によっては「何とかしたい」という語を引き継いで、「どのようになりたいですか?」と応じてもよいかもしれません。
少なくとも、「痩せたい」というお客様が発していない言葉を使ってしまうと、お客様の抱えている問題の可能性の広がりをせばめてしまって、問題解決のチャンスを逃してしまうことになりかねません。
もう少しいいますと、「贅肉」を「体脂肪」と言い換えたり「運動」を「エクササイズ」と言い換えたりすることも感心しません。さらに、お客様に馴染みのない専門用語を使うことも、多くの場合は逆効果となります。
「相手の言葉を使う」という配慮が、共感を生み出す秘訣です。
中村 好男(なかむら よしお)
早稲田大学スポーツ科学学術院教授、専門はスポーツ科学。JWIアドバイザー、日本スポーツ産業学会理事・運営委員長、Wasedaウェルネスネットワーク会長。