コラム
2017.8.3 木曜日エビデンスの罠(1)
「エビデンス」とは何か?
私はあるとき、新しい運動用具の開発に関わっていました。用具といっても、ビーチサンダルに使われる1センチ厚の樹脂素材を60センチの長さに細長く切っただけのもので、狭い幅のマット上に置いてバランス運動をするという用具です。不安定なマットの上で「こんな運動ができるかも」というブレインストーミングをしていた時のことです。
あるインストラクターの方が、「この運動にはエビデンスはあるのですか?」と私にたずねました。「楽しく運動できるのであればそれでよいのではないでしょうか」とお答えしたところ、「どんな効果があるのか、エビデンスがないと、私たちは使えません」とおっしゃったのです。
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「エビデンスはあるのですか?」という彼女の疑問には、インストラクターやトレーナーが「エビデンス」という言葉を使う時、あるいはその言葉が使われる時に、とらわれがちな呪縛が潜んでいるように思います。
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ここで、「エビデンス」という言葉について、少々説明しておきます。
「エビデンス」とは、「証拠・根拠」という意味の英語(evidence)が由来です。主に商取引のようなビジネスの場で、「根拠を示して下さい」という代わりに「エビデンスはあるのですか」というように用いることが多くなってきました。
健康や医療の現場では、EBM(Evidence-based Medicine エビデンスに基づいた医療)という考え方によって、「エビデンス」という語が広まりました。EBMとは、1991年にアメリカのガイアット博士が提唱した考え方です。
当時普及しはじめた電子技術によって、さまざまな医療情報がデータベース化されたのにともない、患者の診断・治療のために、それらの最新情報をうまく利用できないだろうか。このような問題意識のもとで、科学研究情報の活用方法として開発された方法論がEBMです。
つまり、EBM(エビデンスに基づく医療)とは、患者の意思や、医師の臨床能力をも総合的に判断して、患者の意に沿った最適な選択をしようという考え方のことなのです。
(つづく)