コラム

2018.5.31 木曜日

“ヘルスプロモーション”への挑戦 Ⅰ ウォーキング編
2 最初の成果(下)

「先生!大変です。電話が鳴り止みません!」

1998年8月24日、月曜日の朝、研究室に出向いた私に第一声が告げられた。

土曜にも数件の応募電話があったが、月曜日には急増し、受話器を置くとすぐ鳴るという状態が1時間ほど続いたようだった。

 

“カケンヒ”(文部省の科学研究費補助金)を受けた今回の研究は、「運動を自由に行わせたグループ」と「運動内容を統制したグループ」とで、運動効果に違いがみられるのではないか(自由に運動を行わせる方が効果が上がるのではないか)という仮説の下で、所沢にある大学キャンパス周辺の住民に参加を呼びかけて開始したものだ。

用意した内容は、①体力測定、②シューズあるいは血圧計のプレゼント、③講習会、④日誌記入、⑤ウォーキング教室、の5つ、その組み合わせによって定員各20名の3つのグループを構成した。

Aグループ…体力測定・シューズの提供・講習会・日記記入+ウォーキング教室(7回)

Bグループ…体力測定・シューズの提供・講習会・日記記入

Cグループ…体力測定・血圧計・健康の講習会・日記記入

Aグループは「ウォーキング教室群」、Bグループは「自主ウォーキング群」であり、どちらも体力測定・講習会(ウォーキングと健康)・ウォーキング日誌記載をやっていただくことが参加の条件である、さらにAグループについては、毎週土曜日午前にウォーキング教室に参加してもらうこととなっていた。

A・Bグループの参加者にはウォーキングシューズを提供した。また、もう一つのCグループは「血圧モニター群」であり、体力測定・講習会(血圧と健康)・血圧日誌記載をやっていただくとともに、自動血圧計を提供した。

ウォーキング教室では、毎回教室に集合して簡単な説明の後、外でストレッチを行い、事前に用意されたコース図にしたがってキャンパス周辺を歩き、戻ってきてストレッチを行った。途中途中では、「シューズの履き方」、「ウォーキングの基本姿勢と歩き方」、「心拍数の測定と目標心拍数」、「水分補給」、「坂道の上り方・降り方」、などなどの基本技法をちりばめた内容となっていた。

参加者の募集に当たっては、キャンパス周辺の住戸に金曜から日曜にかけた週末の3日間、「健康モニター募集」と題するチラシをポスティングした。その反応が、冒頭に挙げたような状態であった。

 

募集人員は40歳から70歳までの男女で計60名であったが、10時過ぎには年代(40代・50代・60代)・性別ごとに設けていた上限各10名に到達してお断りするグループが現われ、とうとうAグループ(ウォーキング教室群)が20名の定員を超えた。

「ファクスは?」

あわてて事務室に行ってみると、ファクスの山。土曜夜から日曜にかけてのファクスでの申し込みがあふれていた。今まで電話で受け付けていたけれど、「先着順」という建前だから、当然のことながら前日までのファクスを優先せざるを得ない。

「定員を増やそう。」

私は決断し、助手のN君に提案した。彼女も同意し、それぞれのグループの上限を8名とするとともに、30名まで受け付けることとした。と同時に、せっかく電話してきてくださった方にただただ「締め切りました」と断ってしまうのも申し訳ないので、今回募集した3つのグループとは別に、「10月の講習会に参加して、その後8週間にわたってウォーキング日誌をつけてもらう」という第4のグループ、

Dグループ…ウォーキングの講習会・日記記入

を設け、こちらの方は定員を定めずに希望者全員を受け入れることとした。それでも、「ウォーキング教室を受けたかった」という方もいるようだったので、それらの方々には「来春の企画の案内を優先して送付する」ということにさせてもらった。

 

この企画は“カケンヒ”を受けた研究であったので、シューズや血圧計の提供は予算化されていたが、来春以降に行う「ウォーキング教室」は研究費がついていないので、今回と同様にシューズをあげたりするわけにはいかない。それでも、「来春も今年と同様の企画をいたしますので、そちらの方でよければ優先的にご案内差し上げますが…」と、誤解を生むかもしれない微妙な言いまわしでお断りの説明をしたのだった。

結局のところ、木曜日までに194名の方々が応募し、134名(Aグループ30名、Bグループ31名、Cグループ23名、Dグループ50名)がプログラムに参加することとなった。受付の熱狂が醒めても、のんびりとはしていられない。なにしろ、私にとって「ウォーキング」は始めての試みであり、講習会で何を話せば良いのか、ウォーキング教室ではどんなことを教えたら良いのか、全てが白紙からのスタート。こうして、私のフィットネスプロモーション実践研究が第一歩を踏み出したのであった。(つづく)

 

中村 好男

早稲田大学スポーツ科学学術院教授、専門は健康スポーツ科学。JWIアドバイザー。日本ウォーキング学会前会長、日本スポーツ産業学会理事・運営委員長。

 

※画像はイメージです。