コラム
2017.9.13 水曜日Dr.カイボーの眼
第9回 薬の知識があれば
心臓リハビリテーション(以下、心リハ)を専門にしている医師から「心不全の患者さんが心リハで日常生活ができるところまで回復して、地元に戻ってリハビリを続けようと思っても、心リハが出来る医療機関がないところでは、地元のスポーツクラブを希望しても断られるので、リハビリができなくてね」という話を聞きました。
整形外科的疾患であれば、スポーツクラブでもリハビリ目的で受け入れ可能なケースもあるでしょうが、心不全や呼吸不全、あるいは腎不全など内科的疾患を抱えてのリハビリ目的では、医療機関あるいは連携施設でなければ急変時の対応ができないので、受け入れは難しいのが現実と思います。
しかし、そこまでではなくとも、高血圧や糖尿病などの薬を服用している方がクラブやサークル活動に参加されることは珍しくありません。
海外のフィットネスの現場で活躍している方から「参加者の持病や内服薬をチェックしている。疾患のことやお薬の内容による注意点などを勉強したいと常々思う」と言われたことがあります。
日本人は、医師を信頼しているということもあるのでしょうが、自分が飲む薬も医師任せです。私も診療中に「あなたは今A薬を飲んでいるけれど、△な状況なのでこれまでとタイプの違うB薬に変更していい?」と尋ねると、ほとんどの場合「はい。いいですよ」と即答されます。AとBでタイプがどう違うのかについて聞かれたことはほとんどありません。
また、他の医療機関で処方された薬を尋ねる時、何のための薬を処方されたかは何となく答えられても、薬の名前までを言える方はほとんどいません。それが欧米人の患者さんだと、「その薬は何のために処方するのか。副作用は何があるのか」と、私のことをまるで信用していないのかと感じるほどに質問されることがよくあります。
でも、自分がどんな薬を処方されて飲んでいるのかを知っていることは大切なことです。
高血圧の薬であれば、利尿剤、β遮断薬、α遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、AⅡ受容体拮抗薬などがあり、それぞれに効果の出方や副作用が違います。インストラクターのみなさんも、もちろんすべてを完璧に知っておく必要はないと思いますが、薬に関する知識があればレッスン参加者が服用している薬の内容によって注意すべきこともわかり、より安全にレッスンを行うことができます。薬がなぜ効果があるのかということが、副作用も含めて理解できれば、その病気そのものも理解することになります。
もっと言えば、薬での治療以前に注意すべきことも理解できますので、生活習慣の指導にも活かすことができます。フィットネスの現場で生活習慣の改善まで指導ができれば良いと思いませんか。ただし、それですべてが解決するということではありませんので、適切な医療が必要な方にはそのような助言が必要となります。
フィットネスの現場で注意すべきは、自分が述べていることを万能とはせず、偏らない正しい知識を伝え、また医療が必要な場合はちゃんとその必要性を説明してあげることです。良い医師の条件とは、「自分の持ち分はしっかりとした医療ができるけれども、自分の領域ではない場合、その患者さんに対して優れた治療ができる医師をちゃんと紹介できること」と私は思っています。フィットネスインストラクターのみなさんも、ご自分の持ち分を生かして、精一杯、参加者の皆さんにご奉仕していただくことを希望します。