コラム
2017.8.8 火曜日Dr.カイボーの眼
第5回 人体の仕組みのすばらしさ
肺では、肺胞と毛細血管の間でガス交換が行われ、気体である酸素は、肺胞から血管に取り込まれる際に液体に溶解します。その酸素は赤血球が含むヘモグロビンと結合します。血液量は体重の約8%。体重50キロの人なら約4リットル。そのうちの45%が血球(赤血球、白血球そして血小板)です。その容積のほとんどが赤血球であり、その数は約20兆個。これはヒト全体の細胞数37兆個の半分以上です。
赤血球はミトコンドリアを持っていません。酸素の運び屋である赤血球自身が酸素を消費しないという、とても優れた仕組みです。
このように、ヒトにはとても感心する仕組みが多く存在します。今回は、人体の良く出来た仕組みについて、いくつかご紹介します。
脳に行く動脈の話です。心臓から大動脈が出て、そこから動脈、細動脈そして毛細血管というように、細い血管へと順に枝分かれしていきます。どこか1か所が詰まればそこで血流が途絶え、そこから先の細胞は死んでしまいます。脳梗塞や心筋梗塞などはそのような病態です。
でも、脳に関しては、ちょっと事情が違っています。脳の底では、左右の椎骨[ついこつ]動脈が一本にまとまり脳底動脈となり、その先では左右の内頚[ないけい]動脈との間でウィリス動脈輪というものを形成し、そこから脳全体へと動脈が走っています。脳に向かう4本の動脈のどれかに障害が起きて血流が途絶えても、他の流れている動脈で脳の機能を完全ではないとしても保とうとする仕組みです。それだけ脳は特別に守られているのです。
胎児の血液循環の仕組みも、とても理にかなったものです。胎児は肺呼吸をしていません。酸素はお母さんの呼吸で取り込まれ、胎盤から臍[さい]静脈を通って胎児の体に入ってきます。そして、心臓の中の右心房と左心房という部屋の間に穴(卵円孔)があり、ここを多くの血液が右から左へと流れていきます。また、肺動脈から大動脈へも肺動脈管という血管があり、大動脈へと流れていきます。
肺呼吸をしていない肺を血液が通る必要がないので、このようにショートカットする仕組みになっています。そして生まれて間もなく、卵円孔や肺動脈管は閉じられ、すべての血液は肺へと流れ、そこでガス交換をするようになります。
心臓のポンプ機能も、とても優れた仕組みです。心臓の細胞(以下、心筋細胞)は自動能(自分で伸縮できる能力)を持っています。でも、各々がバラバラに動いたら、統率のとれたポンプ機能を果たすことはできません。そこで、刺激伝導系という全体の動きを統率するシステムが存在しています。
ルートの上流に位置する心筋細胞ほど自動能のリズムは速く、刺激伝導系の最上流であるペースメーカー細胞が最も速いです。ペースメーカー細胞が電気を発生し、その電気が刺激伝導系を流れることで、心臓全体が統率のとれた動きで拍動します。しかしもし、上流から電気が流れてこない(途中で断線する)事態が起きると、その事態が起こった場所から下の心筋細胞の自動能のリズムで電気が流れます。このことにより、心臓は止まることなく、拍動数は通常よりは少ないものの血液の循環を持続することが出来るのです。
今回は、人体の仕組みのすばらしさを知ってほしくて少し難しいお話になりましたが、次回は心臓のポンプ機能による循環の話をします。