コラム
2017.9.21 木曜日Seniorフィットネス―冨永典子さんに聞く (総集編)
プロフィール
冨永典子(とみなが のりこ)
AFAAマスター検定スペシャリスト。民間フィットネスクラブや公共施設にて指導を行う一方、検定やワークショップを通じてインストラクターの育成に力を注いでいる。
「ウェルネスフェスタ~未来に備える~」
―JWI 健康いきいき応援企画「ウェルネスフェスタ~未来に備える~」が10月16日に茨城県で、11月12日には福島県で行われます。どのようなプログラムでしょうか?
冨永 ウェルネスフェスタは、地域の皆さまの「元気な生活を応援する!未来に備える!」というコンセプトのもと、幅広い世代の方々に参加していただいて、楽しく身体を動かしながら健康づくりのお手伝いをする新しい形のプログラムです。
同時に、AFAA指導陣の中でシニアプログラムを推進しているチーム5名と、地元で活動しているインストラクターのメンバーさんを中心に、市民の方を主役としてJWIイチオシのエクササイズを楽しんでいただこうと、特別ワークショップを準備しています。
―どのようなきっかけでこのようなプログラムを企画されたのですか?
冨永 AFAAシニアチームでは、今まではどちらかというと、インストラクター向けに情報発信をしてきました。が、シニア理論を広げていく過程で、インストラクターの皆さんにも、シニアの方々と一緒になって身体を動かす体験をしていただくことが必要ではないかと考えていました。
そんな折に、シニアチームの手嶋恵さんが広島県廿日市市のフィットネス協会の理事をされていて、今年4月にJWIと廿日市市フィットネス協会のコラボイベント「『元気な生活を応援するプログラム体験』&フィットネス大運動会」を試験的に開催してみました。参加された皆さんの反応がとても良かったので、今後、全国各地で定番化できるように、プログラムなどを検討して、「ウェルネスフェスタ」という発展した形で10月茨城と11月福島で開催する運びとなりました。
―シニアに限らず、幅広い世代の方々に参加していただくプログラムとして、「フィットネス大運動会」という形で始まったのですね。
冨永 はい。シニアの方はもちろん、加齢は誰もが避けられないことですから、シニアだけを健康にするのではなく、全世代にアプローチをして、世代をつなぎながら今から加齢について考えてほしいと思っています。多くの方々に集まっていただくためには、お祭り的な、運動会的な要素がある方がいいのではないかと考えました。
ただ、シニアの方々も参加するとなると、たとえば転倒などの事故が重大なケガにつながっていくこともあって、どうしても「競わせない」とか「走らせない」とか、安全面を重視することになります。安全性を重視するあまり、勝負を避けると、面白さがなくなってしまう。逆に、シニアの方々から見て、「運動会」というと、勝ち負けがかかっているから自分が参加するのは無理だと敬遠されてしまうのではないか。いろいろ悩みました。
幸い、シニアチームのメンバーの中に、子どもたちやシニアの方たちへの指導キャリアがあって、学校の先生の経験もあるマスター検定スペシャリストの中田成裕さんがいらっしゃって、引き出しがたくさんある中田さんがアイディアを出してくださいました。たとえば、玉入れや借り物競争に一工夫して、立って一斉に投げるのは危ないけれど、座って投げるとみんな慌てないよね、とか、通常の運動会をアレンジして、勝ち負けを競いながらも、危なくないゲームを作ることにしました。
―フィットネス大運動会「ウェルネスフェスタ」、これからも各地で展開していこうとお考えですか?
冨永 4月の広島県廿日市市の大運動会は、日曜日ということもあって、おばあちゃん・おじいちゃんから子どもたちまで、親子三代にわたってみんなで盛り上がって、予想以上にいいプログラムになったと思っています。茨城・福島でも盛り上げていって、ぜひ今後も全国展開していきたいと考えています。
都市型や郊外型のフィットネスですと、クラブやジムに来た会員のお客様とインストラクターの関係になりますよね。でも、一歩クラブの外に出たプログラムを企画するといろいろな人が集まって、インストラクター自身も楽しめるし、来てくださった方々に楽しんでいただけるように努力しますから、新しいコミュニティの広がりや発展性があります。
今後も、シニアチームの私たちだけが頑張るのではなく、全国各地のJWI指導陣やインストラクターの人たちとコラボレーションをして、地元のお客様にも参加していただけるようなプログラムを展開していきたいと考えています。お客様にとっても、年に1回でもいい、普段レッスンを受けている先生や仲間とは違う多くの人たちと一緒になって、楽しみながら、改めて健康について考えることができるような新しい形でのプログラム、正にウエルネスイノベーションを提供していきたいですね。
シニアフィットネス・プログラムとは?
―冨永さんは指導陣の中のシニアフィットネスチームのリーダーを務めていらっしゃいます。AFAAシニアフィットネスとは、どのようなプログラムなのでしょうか。
冨永 AFAAシニアというカテゴリーは、2014年に、AFAA USAのGolden Heartsというシニアプログラムのマニュアルを日本語に翻訳して提供し始めたのが最初です。Golden Heartsはアメリカの研究データを使ったものですが、世界のどの国よりも早く超高齢社会(65歳以上のシニアが人口の21%を超えると超高齢社会。現在は26.7%)を迎えている日本の厚生労働省のデータなども参考にして、レクチャーをしてきています。
ワークショップでは、まずシニア理論1で元気で活動的なシニアの方向けの、2で疾病や慢性障害をもっている方向けの内容を学んでいただくようにしています。今年は、シニアチーム以外の指導陣の人たちも理論を担当して、各地域でワークショップが開かれるようになりました。
1日を通して、前半3時間を座学で理論、後半3時間でエクササイズ編という形にしていますが、やはり体を動かしたいとか、指導する際のテクニックを身につけたいという希望が多いですね。エクササイズ編だけでも受講できますが、AFAAシニアのガイドラインやベースに基づいてエクササイズを紹介するので、最初の15分、20分ぐらいでガイドラインの解説をしています。
―ワークショップにはどのような方が参加されていますか?
冨永 フィットネスクラブなどでは最近、特に「シニアクラス」と名前を付けなくても、一般のZUMBA®やエアロビクスのクラスにシニアの方が参加される機会が増えています。シニアの会員さんが抱える痛みや病気にどのように対応・指導したらいいのか、勉強したいというインストラクターさんが参加することが多いようです。
あるいは、JWIの会員ではない福祉施設のケアマネージャーなど介護に関わっている方たちや、保健所など行政関係者の方や健康運動士の方、看護師さんなどが、検索してワークショップの存在を知っていただいているようで、参加申込みをされています。
ただ、全体的に見ると、グループインストラクターの方々の反応は残念ながらいま一つで、特にシニア理論などは皆さんの心に響いていないのかなと思う時があります。シニアの方々が、加齢に応じた身体の変化や疾患を踏まえてこれから先も元気でいるために、日常生活ではどんな工夫をしたらいいのか、運動を通してQOLの維持向上ができることをシニアプログラムを通じて伝えていただきたいのですが。若い方にとっては、自分はシニアではないし、現実のこととして受け止められないところがあるのかもしれませんね。
―シニア理論、「理論」というと敬遠してしまう人も多いのでは。
冨永 はい、残念ながら。でも、シニアの身体のことやプログラムの管理方法についてよく理解しておけば、クラスでも適切な声かけができます。たとえば、シニアになるとケガをする場合でも重症度が大きくなります。以前はちょっと捻挫したとか、肉離れぐらいで済んでいたのが、今は転倒して手をついただけで骨折または複雑骨折、腰椎や頸椎の圧迫骨折といったことが実際に起こっているんですね。
加齢によって柔軟性がなくなり、筋力が低下して体を支えられなくなってくると理解しておけば、安全や効果に関する言葉がけもできます。また、柔軟性や筋力を向上させるエクササイズをレッスンに入れることも可能です。ケガの予防にもなるし、運動の効果を伝えることによって、お客様は知らず知らずのうちに自分の身体に意識を向けていくことができます。
それに、“今、なぜこの動きをしなければならないのか”、“なぜ、いつも同じことを繰り返しているのか”、お客様を説得できる裏づけが必要な時もありますよね。私が担当しているクラスで、お客様に「先生のクラスはきついからできない、前の先生はもっと優しくやってくれた」と言われたことがあります。でも、「できないからやるんだよね、できないからできるようにしていくことで筋肉が強くなるし、柔らかくなっていく。できることをずっとやっていても、体は変わらないよ」という話をすると、納得してくださいました。
「同じことをするのにも意味があるし、週に何回、どのくらいの強さでどのくらいの時間やらないと運動の効果が出ない」という話をすると納得してくださって、今までなんとなく身体を動かしていたのが、今度は自分で意識して足をちゃんと上げるようになる。そうすると必然的に体が変わるんです。
70代、80代の方たちでも自分の身体が変わったという感覚が、3か月ぐらいすると分かる。そうなると、自然に参加者も増えてきて、クラブ側にも喜ばれますよね。自分より年上の方に納得していただき、楽しんでいだだくためにも、自分自身のプログラムの裏付けは必要だと思います。
シニアを知ってすべての世代を知る
―今は各地の自治体でも民間のクラブでも、シニアの健康づくりへの取り組みが盛んに行われています。今後、シニアフィットネスが展開していく場は多くなっていくでしょうか。
冨永 JWIには、クラブでクラスを受けもったり、自分でサークルを立ち上げたりしているインストラクターが多く、自治体の健康教室などを担当するチャンスがなかなかないように思います。しかし、地方では行政から教室の指導を依頼されることが多く、そのために健康運動指導士の資格をもっているインストラクターも多くいます。
自治体の保健士さんや職員の方々は専門的に勉強する機会が少なくて、情報も少ないと思います。一方、私たちJWIのインストラクターは、お客さんが楽しみながら体を動かすように引っ張っていくことが得意です。楽しいと心が弾む、心が元気になると自然に笑顔も生まれる。それができる指導者は、これからもっと必要とされてくるでしょう。元気なシニアを増やすことがこれからの日本にとって必然である以上、シニアフィットネスのインストラクターが必要とされる場はまだまだたくさんあると思います。
―最後に、シニアフィットネスに携わっていくことの楽しさや魅力についてお聞かせください。
冨永 自分がシニアになってから、あるいはシニアの指導をするからシニアのことを勉強すればいいと思うインストラクターも多いと思います。けれども、どの世代にあっても、シニアを勉強することによって、今、何をしなければいけないのか分かってきます。
骨を強くするなら20代、30代がピーク、そのためにどのような運動をしていくのか、日常生活や食生活のあり方はどうしたらいいか、見えてくるんですね。神経系の発達は6歳ぐらいまでに成人の80%に達します。その6歳までにどんな運動経験をしたらいいのか。小学生時代はゴールデンエイジ。40代から加齢に伴う身体的変化が……等々。シニアを知ってすべての世代を知る。知ることによって自分の身体や心に気づき、今、必要な適切な運動をし、身体も心も健康に幸せになる。それが提供できるのが私たちインストラクターだと思います。
学校の先生は小学校、中学、高校、その世代しか関わることができません。でも、私たちはベビーからシニア、望めば障害をもつ人たちとも関わるチャンスがあって、本当に多種多様な人たちに関わることができます。
私たちが元気を出してもらおうと臨んだら、逆に元気をもらえた、ということもしばしばあります。この仕事の楽しさや価値は、皆さんが想像する以上だと思います。今の私があるのは30数年間私のレッスンを受けてくださった方たちのおかげだと思うし、その方たちにこの先もずっと元気でいてもらいたい。ずっと自立していて、健やかに日常を送っていただくことができたら、こんな幸せなことはないと思っています。
そして、今、私は、この素晴らしい仕事に、もっと多くの人に携わってほしい、一人でも多くの方にそして次世代につないでいきたいと、日々思いながら指導をしています。
―ありがとうございました。