コラム
2017.7.25 火曜日Dr.カイボーの眼
第3回 「呼吸」について
「(体が)生きる」ということについて述べていきたいと思います。初めにおことわりしておきます。「生きる」ということの定義について、哲学的、宗教的または生物学的等、さまざまな解釈があることは承知の上で、ここでは「呼吸」をしていることを「生きる」ということにします。その方が、フィットネスを医学的視点から述べるのに都合が良いからです。
フィットネスをするとき、呼吸にフォーカスすることはとても大切なことです。自分の呼吸が通常と比べて、どのような状態なのかを意識します。息切れしていないか、息が止まっていないか、コントロールできる範囲内か、などです。
そして、呼吸は吸うことよりも吐くことの方が大事です。肺は自分で拡張したり縮んだりできません。外肋間筋[がいろっかんきん]と横隔膜が収縮することで肺は拡張し(吸気)、それらが弛緩することで縮みます(呼気)。
吸気について。空気は鼻腔から咽喉頭、気管支を経て肺の最小単位である肺胞へと取り込まれます。直径0.2mmほどの肺胞は左右の肺に約6億個あります。そこで毛細血管との間でガス交換を行います。酸素が血液中に入り、二酸化炭素が空気中に出てきます。
1回の普通呼吸で出入りする空気の量は約500ml。ペットボトル1本分です。意外と多いように感じるかもしれませんが、気管支などには350mlほどのスペースがありますから、肺胞自体の空気の入れ替わりはもっと少ないです。
普通呼吸で息を吐いたところで一度息を止めて、さらに息を最後まで吐き切ってみましょう。そこで出る空気の量は1200ml。つまりそれだけ吐き切れていない空気が肺の中に残っているのです。それでもまだ肺は完全に縮み切って全ての空気を出してはいません。さらに1200mlの空気が残っています。これを残気量と言い、最低限の肺の膨らみを保つための空気です。
肺胞が潰れてしまわないように、肺サーファクタントという界面活性剤が分泌されています。ヒトでは胎生34週目ごろから分泌が始まりますので、早産の場合でも、赤ちゃんが自分で呼吸が出来るようになる妊娠34週まで出産を伸ばすように頑張る理由はこれです。
また、気管支喘息や肺気腫などでは、肺の弾力性が低下するために残気量が増えます。分かりやすく言えば、息が吐き出しにくくなることにより、新たに息を吸うスペースが狭くなり息苦しくなる病態です。肺気腫の場合はこれだけではなくて、肺胞自体が破壊されてもいます。
吸気をみてみましょう。努力して最大で4800mlの息を吸い込むことができます。これが肺活量です。通常の呼吸では500mlですから、私たちは普段、呼吸について全能力の1割ほどしか使わずに生活しているのです。普通呼吸はとても浅い呼吸です。そしてそれでも、1日の呼吸回数約2万回で消費されるカロリーは150kcal。これは1時間のウォーキングに相当します。
膝や腰が悪くて歩くことや立つことができないことを理由にフィットネスをあきらめている人も、腹式呼吸や胸式呼吸などを上手にすることで、呼吸で運動することも可能です。さらに、呼吸は心に対しても良い影響を与えます。次回はそのことについて述べてみます。