コラム
2017.5.23 火曜日インストラクター&トレーナーストーリー
第1シリーズ 総集編
【語り手】
秋野典子(あきの のりこ) AFAAマスター検定スペシャリスト、ZUMBA®教育スペシャリスト。ワークショップやインストラクター養成を日本全国にて展開している。
手嶋 恵(てしま めぐみ) AFAAマスター検定スペシャリスト、フィットインジャパン株式会社 代表取締役。ベビーからキッズ、マタニティからシニアまで、幅広い世代の心と体の健康づくりにあたっている。
除村元子(よけむら もとこ) AFAA マスター検定スペシャリスト。キックボクシングエクササイズをはじめNewプログラムである天空大河、Q-ren骨盤体操などの指導プログラムを展開している。
【聞き手】
中村好男(なかむら よしお) 早稲田大学スポーツ科学学術院教授、専門は健康スポーツ科学。日本ウォーキング学会前会長、日本スポーツ産業学会理事・運営委員長。Waseda ウェルネスネットワーク会長。
目次
※長文になりますので、ブックマークをおすすめします。
奥村 この座談会企画は、「どうにかしてインストラクター・トレーナーの方々の自立とさらなる活躍のためにJWIとして寄与したい」という想いから始まりました。フィットネスの第一線で活躍している方々のストーリーをつないでいくことによって、インストラクターやトレーナーの皆さんの今後の活動に生かしていただけたらと考えています。
聞き手をお願いしました中村好男先生は、スポーツ科学を専門に研究され、日本のフィットネス産業にも精通していらっしゃいます。先生には2015年12月の「AFAA 指導陣トレーニング・全体ミーティング」で講演をしていただきましたが、先生の講演をきっかけに今回の企画もスタートしました。それでは中村先生、秋野さん、手嶋さん、除村さん、よろしくお願いします。
中村 講演のさいに奥村さんから頂いたテーマは“フィットネスインストラクターの自立”でした。それで「フィットネスインストラクターの自立と社会においてのあり方」というタイトルにしてみたのですが、皆さんはその時の話をお聞きになっていて、どんな感想をおもちでしたか?
秋野 一番印象に残っているのは、先生が最後に「君たちがやることに自信をもちなさい」とおっしゃってくださったことでした。すごく後押しになったというか安心したというか。ちょうどその年の夏にAFAAが買収されて、AFAAというブランドが今までの私たちのバックにあったわけですけれども、その状況が変わっていろいろ揺れていた頃だったんですね。バックグラウンドがなくなった状態で私たちは今までのように仕事を続けられるのかどうか、不安をもっていたところなんです。ですから先生が「大丈夫だから自信をもっておやりなさい」とおっしゃってくださったことがすごく響きました。
手嶋 先生のお話をうかがってただただ、安心しました。途中で「AFAAが買収されました」ってお話が出た時には、聞いていたコンサルタントたちの表情が一様に変わったんですよ。買収ってみんながドキッとするワードだったんです。私自身はちょうどその頃、キッズのフィットネスの文献をあたりながら新しいプログラムを作る試行錯誤の最中だったんです。後ろ盾がなくなるかもしれないと不安だったところ、でも締めくくりが「大丈夫、フィットネスの指導者として夢を叶えるために頑張りなさい」というお話で本当に安心しました。
除村 私がすごく印象に残ったのは、先生が「楽しいエクササイズだったらいいじゃないか、楽しいっていうことが一番大事なんですよ」というお話です。「エビデンス、そんなものいらないよ、エビデンスがなくたって楽しいのがいちばんでしょ」とおっしゃってくださったのが一番嬉しかったです。エビデンスがいちばん、エビデンスがなければという日本のフィットネス業界の中で、私たちは本当に楽しいことしかやっていないんですけれど、本質は楽しいことにあって、そのあとにエビデンスというものがついてくるって、本当にそうだなって改めて思いました。「エビデンス、なくてもいいじゃない」という言葉には拍手を送りました(笑)。
中村 ぼくが思っていた以上のインパクトがあったようですね。
◇“エビデンス”は必要か?
中村 以前、新しい運動用具の開発に関わっていたことがあって、ジムでブレインストーミングをしていた時に、あるインストラクターの方に「この運動にはエビデンスがあるのですか?」と聞かれたことがあります。「楽しく運動できるのならばそれでよいのではないでしょうか」とお答えしたところ、その方は「どんな効果があるのか、エビデンスがないと私たちは使えません」とおっしゃったんです。それ以来、フィットネスのインストラクターやトレーナーにとって“エビデンス”ってなんだろう? と問い続けてきたのですが、皆さん、指導者としてエビデンスをどうお考えになっているのか、お聞かせいただけますか。
秋野 私がエビデンス的な情報を交えてワークショップを始めたのは、20年ぐらい前に流行ったステップリーボックで、例えば25センチの台に昇り降りする時の一歩一歩の衝撃度が体重の何倍かなど、しっかりしたエビデンスがあるんですね。降りる足がいつも同じだと衝撃力が偏ってしまうから、衝撃力をバランスよく分散させた方がいいですよ、いつも右足で昇って右足で降りるステップを1回1時間、週に3回、3か月続けたらどうなりますか、降りる回数はワンレッスンの中で左右均等になるようにしましょうねという話につないでいきます。
受講者の方たちにちょっとした数字をインフォメーションできるかどうかによって、運動に対する理解度も違ってくるんじゃないかな。そういうエビデンスは欲しいと思います。
中村 シナプソロジーはエビデンスがあると言われていますね。
秋野 シナプソロジーに出会ったのは4年ぐらい前ですが、自分自身で同じようなことは15,6年ぐらい前からやっていました。でもそれは、秋野が自分の経験と勘だけを頼りにシニアのお客様に提供してきたプログラムでした。
シナプソロジーには、こういうプログラムでやると一時的な効果はこうで継続的な効果はこうで、というしっかりしたエビデンスがあります。インストラクターの方々に指導をする立場としては、秋野の経験と勘を頼りにつくったプログラムと、医学的にも体育科学的にもエビデンスのあるプログラムとでは、説得力がぜんぜん違うんですね。私自身もこれまで考えながらやっていたことの裏付けが取れたという思いはありました。
手嶋 指導する立場としては、学問的に効果が検証されているという安心感を伝えることができます。以前、受講生から、シニアの方々にレッスンをする時に「年寄りにお遊戯をさせるのか」「子ども扱いしている」と言われたと相談されました。目的や効果が明白なら、その意味でエビデンスは拠り所になりますよね。
除村 私たちは昔からシナプソロジーのようなことを各自やっているんですよね。私も留学時代にセラピックレクリエーションを勉強して、それを生徒さんたちに教えていたことがあります。その後、シナプソロジーが入ってきてあっという間に広まった。新しいプログラムが日本に入る時って、日本人が好きなエビデンスがないと受け容れてもらえないってところもあったんじゃないかな(笑)。
中村 日本人はエビデンスが好きなんですかね(笑)。エビデンスがないからダメというわけではないけれども、エビデンスがあると説明しやすいし、説明を受ける側も納得しやすいと。
秋野 プログラムによるのかなと思います。ズンバのようなプログラムにはエビデンスなんて必要ないし。ズンバのトレーニングのマニュアルはたくさんありますが、エビデンス的な表現は一つもないですね。
中村 ズンバでは、エビデンスがないことについて、誰も疑問に思わないんですか?
秋野 まったく疑問に思わないです。例えば強度もインターミディエットになるようにと言うぐらいで、心拍数とか運動強度の数値は出てこないんです。あるのは感覚だけ。ズンバはまず音楽ありきで、誰でもぱっと見てぱっと踊れるようなプログラムを提供していきます。音楽と動きの一体感が他のプログラム以上にあって、感覚で動いて楽しい、魂を揺さぶるんですね。ソウルフルなものだから、エビデンスの取りようがないんですよ。
手嶋 よく分かります。
除村 バレーや日本舞踊やダンスにもエビデンスはないですよね。ズンバはフィットネスから入ってきたけれども、フィットネスとダンスの中間にあって、両方のいいところをもらっているプログラムじゃないかなと思います。
中村 ズンバのように魂を揺さぶられるようなプログラムではエビデンスはいらない、まさに感じさせる。一方でシナプソロジーの場合、エビデンスというと皆が分かりやすい。それだけ魂に左右しないプログラムだということですか?
秋野 シナプソロジーに魂を揺さぶる効果は必要ないですよ。ノーミュージックですし。できないことに自分自身がおかしくてしょうがなくなる、できなくてげらげら笑うことが楽しい、それがシナプソロジーのよさじゃないかと思います。
手嶋 できなくてもよくて、できないことを楽しめるんですね。企業さんの講習会で、常務ができないのに若い社員はできちゃうってことがよくあるじゃないですか。普通だと気まずい雰囲気になるけれど、「このプログラムはできないことがイエスなんですよ、できないことで得をしましたね」ってお伝えすれば、常務も若い社員もみなさん笑えるんです。
中村 シナプソロジーにはできないことが楽しいという仕かけがある。エビデンスがあるからいいプログラムだ、ということだけではないんですね。
手嶋 回数を重ねるうちにお客様の表情が変わってきて、それまでプログラムに積極的に参加しなかったような方が、自らすすんでスタジオに入って来られるようになる、そういう目に見える変化をよく目にします。
除村 私は、これからは笑うことや楽しいことが心にも体にもいいという考え方が世の中に通るようになって、エビデンスがあるかどうかは必要なくなってくると思っているんですね。お客様が自分の体に耳を傾けてみて、自分の体に効く、心に効くと思えばそれがエビデンスになる、それが当たり前になってくる。皆さんそれぞれ顔が違うように、いろいろなエビデンスがあるのが当たり前の時代になって来るんじゃないかなって。
中村 そこですよね。指導する側のトレーナーやインストラクターがエビデンスを押し付けるのではなくて、“お客様に寄り添う姿勢”が何よりも大切、エビデンスはお客様自身の感じ方の中にあると。
中村 皆さんはフィットネス界でリーダーとして活躍されています。仕事をしているなかで心がけていることや大切にしていることをお聞かせください。
秋野 私はいま53歳ですが、30代や40代の頃は、50代になったら仕事が目減りしていって、体力的にもつらくなって右肩下がりになるばかりだと思っていました。ところが、今がいちばん忙しいんですよ(笑)。とてもありがたいことです。でも、来年も同じとはかぎらないから、今この時、一本一本のレッスンやワークショップやトレーニングコースに精魂込めて向き合うということでしょうか。同じ内容でも、その時々によって流れは変わってきますよね。機械的に流さずに五感を張りめぐらせて、真剣に真摯に向き合うというのが一つ。
それから、ズンバではウェアの新作が一か月おきに出るんです。ズンバ教育スペシャリストとして、ちゃんと着こなして宣伝する役目も私にはあるんですね。常に人に見られる仕事だと意識して、まず身なりから整える。衣装選びから仕事が始まっていると心がけています。
手嶋 私も、インストラクターとしていただいている機会を大切にして、お客様一人一人を意識しながら、一生懸命やっていくことが一つ。同時に、ささやかですが会社をもっていますので、経営者として、会社を支えてくれるスタッフの雇用の拡大や収入の拡大、人材の育成に力を注ぐことですね。
会社では、赤ちゃんやキッズ、お母さん方や保育士さん向けのレッスンや、企業や官公庁、病院や施設など、世代や社会的なバックボーンが違う方々がいらっしゃる場にうかがって、フィットネスの指導をしています。それぞれの場で求められていることは違いますよね。必要とされる場に必要とされる人材を、というコンセプトで会社をつくったのですから、まずは仕事の場をできるだけ増やしたい。そして、それぞれの場で求められていることにしっかりチャンネルを合わせられるような、きちんとした社会常識をもった、人とのご縁も大事にするスタッフを育てるのも私にとって大切な仕事です。
除村 秋野さんや手嶋さんと同じで、皆さんに楽しんでいただき、来てよかったと思っていただけるワークショップができるように向き合うことですね。それから、秋野さんが言われたように、レッスンの場にいるインストラクターとしてだけではなくて、家から一歩外に出たら、どこで誰が見ていてもインストラクターであり続けたいって思いがあります。スーパーで安い豚肉を探していて、先生、この間スーパーにいたでしょって言われたり、誰もいないと思っていたサウナで素っ裸で横になっていたら、「先生!」って声をかけられたりすることってあるんですよね(笑)。自分はいつもどこかで、人から見られている仕事をしているんだって意識しています。
もう一つ、いま私の中にある課題は後進を育てることです。今のフィットネス業界、メインで動いているのは40代、50代のインストラクターなんですよね。もっと20代の人たちに活躍してもらわないと。フィットネス業界の未来への種まきをして、若い世代のインストラクターを育てる仕事も大切にしていきたいと思っています。
中村 皆さん、お客様に対しても、指導者としても、その場その場で一人ひとりに対して真摯に向き合うことを大切にしていらっしゃるんですね。
秋野 そのために、自分自身の日常の生活をちゃんと整えるって大事だな、とつくづく思っています。生活が整っていないと体調が崩れて、いいワークショップができないですよね。風邪ひとつひいてもしんどい仕事なので、自己管理と体調管理を大切にしています。あとは心と体のバランスに注意すること。体は何ともなくてもメンタルが病む場合ってあるじゃないですか。
中村 心と体のバランス、メンタル面での自己管理も大切だということですか。
中村 皆さん、ストレスを感じられることが多いのですか?
秋野 それはありますよ。だいぶ前に、人間関係のトラブルが原因でメンタルが病んで、大切な仕事に穴をあけてしまったことがあるんです。しばらく自己嫌悪に陥ってずっと泣いていました。そういうことがあって、仕事ができなくなるほどメンタルを冒してはいけないと心に決めました。
手嶋 私たちって、お客様にストレスを発散していただくことも仕事にしていますよね。自分自身があまりにストレスを抱え込んでいると、皆さんのストレスを解消しましょうって僭越なことは言えない気がするんです。でも、何かあっても仕事のスイッチが入るとにっこり笑えるんですよ。逆に、スイッチをオンオフするからメンタルが保てているのかな。仕事をしている時と自分一人になった時と落差が大きくて、自分自身に刃が向かって来ることがたまにありますけれどね(笑)。
中村 みんなの前では仕事モードで自分を演じることができるけれども、一人になった時に自分に刃が向かって来ると。
手嶋 私の場合、経営者の立場もあって、火の粉はしょっちゅう身に降りかかってくるわけで、でも火の粉まみれで人の前には出られない。そこで仕事モードのスイッチを入れて仕事はやり遂げるけれども、生身の人間ですから。仕事を終えて玄関の鍵を開けて家に入った途端に、骨盤が後傾してガクっとくるんですね(笑)。どんな職業の方もそうでしょうけど。
中村 除村さんは?
除村 7年前に父が急死しまして、もう仕事を辞めようかってところまで落ち込んだことがありました。仕事をしている時には何も考えずにいられるけれど、仕事が終わって一人になるとずっと泣いてしまって。全然やる気がなくなって朝起きられない、それでも仕事に行っていつもと変わらずにやるんですけれど、その後またがっくりして、ああもうダメだ、辞めようかと。病院に行ったら、あり得ないところまでホルモン数値が下がって、鬱になってもおかしくない状態になっていたんです。その後、治療をしながら仕事を続けていったら元気になったんですけれど、仕事があったおかげで助かったと思っています。
中村 プロフェッショナルとして、どんな状況でも仕事ができるというのが一流のインストラクターの条件なのですね。心にストレスを溜めていると仕事とのギャップができて、一人になった時に抜け殻になるような感じをもつこともある。ふだんからメンタルをいい状態に保っておく必要もあるし、一方では落ち込むこともあるので、そうなっても驚かないでね、という皆さんのメッセージでもあるように思います。
手嶋 今でも時々、空に向かってギャオーって吠えていますよ(笑)。でも、結局は自分と向き合うしかないんですよね。若い頃は一つ一つのことに翻弄されがちだったけれど、情けないことも辛いことも、その積み重ねがありがたいと思えるくらいに様々な経験ができました。何か起きて当たり前、そこから逃げないでキチンと向かい合っていれば、必ず答えがいただけると信じています。それに、ドスンと来ても、後から思うと次につながるようなメッセージがちゃんと入っていて、何か意味がある、ドスンをいただけてよかったなと思う時があるんです。賜りものみたいに降ってくる感じかな。
秋野 降ってくる、その感じすごく分かります。5年前に東日本大震災があった時に、2週間ぐらい営業停止になったんですね。営業を再開して、さあレッスンしましょうっていう時にずい分悩みました。ズンバのリードって、全身からエネルギーを出して、満面の笑みで踊らなければいけないんですね。でも、テレビで大津波の被害の映像を見て毎日泣いていて、笑っている場合じゃないだろって。それでもレッスンをしなければいけない自分がいる。数回は自問自答しながらやっていたんですけれど、ある日、ふっとふっきれました。お客さんは体を動かしたくて来るんですよね。もしかしたらインストラクターに救いを求めているのかもしれない。これでいいんだ、笑っていていいんだ、人が元気でいるために私はフィットネスを提供しているんだ、って気持ちを切り替えることができたんです。それからは満面の笑みで踊れるようになりました。
手嶋 ここ数年のことなんですが、人に愚痴を言うとか、慰めてもらおうという気持ちがなくなってきました。辛いと人に言うのは「悪い気」を渡すことだなって。それで自分が楽になるならいいけれど、ならないんですよね。むしろ倍増する。結局は自分のことは自分一人でしか解決できないと、少しだけ分かってきたんです。
中村 それは自立の一つの側面ですよね。自分の身に降りかかってくることを自分で受け容れることが自立の条件ですからね。
除村 ガス抜きができるツールを一人一人、それぞれにもっていることが必要じゃないかって思うんですよね。美味しいケーキを食べたら幸せとか、ウィンドウショッピングをしていて、たまたまいい服が見つかってラッキーみたいな。ガス抜きポイントがどこかにあって、ポッと開いてシューってなる時が日々の中でちょこちょこある、溜めすぎないっていうのが、インストラクターの仕事として重要じゃないかな。私は自分のレッスンの中でストレスを解消させていただいている側面もあります。もちろんお客様のためのレッスンでもあるけれど。
中村 それは除村さんが最初におっしゃっていた、楽しくやろうよということに通じますね。まず自分が楽しくなること、ハッピーになるのが何よりも大事だし、それでストレスを解消できるような、そういう仕事の仕方ができるといいということですね。
中村 辛いこともある一方で、うれしかったな、やりがいがあると実感できる時もあると思います。今までで一番、心を動かされた仕事についてお聞かせください。
秋野 それが、最近しょっちゅう週末にあるんですよ(笑)。週末はワークショップやトレーニングが多くて、同じ内容をやっていても、今日はうまくいったとか、いかなかったとか、波はありますけれど。今日は受講者の心をわしづかみにできたって感覚が得られた時は、帰りの新幹線で体はくたくたに疲れているけれど心は充足感と達成感で一杯です。しかも、先週より今週って高まっていくんですね。もうやめられないなと。ずっと続くわけではないけれど、その瞬間っていいホルモンが出ていると思うんですね。もうしあわせ! みたいな。
手嶋 自分が必要とされたと実感する時です。「いい先生が来てくれてよかった」と言っていただいたり、現場で求められたことに添えたかなと思ったりした時。一番嬉しかったのは、22年前に私のマタニティのクラスに来られていたお母さんがいて、胎児の頃から赤ちゃんの頃、年長さんまでお付き合いをさせていただいたお子さんが、お母さんになってマタニティのクラスに戻ってきたんですよ。22年ぶりの再会でした。小っちゃい時と同じ顔をして、手嶋先生、って声をかけてくださって、本当に嬉しかったですね。私がお世話になっている産婦人科の院長先生がいつも、取り上げた子の赤ちゃんを取り上げるのは嬉しいって仰っていますけれど、その先生の気持ちがものすごく分かったんです。
除村 日々のレッスンで毎回達成感があって、ああ今日もやってよかった、気持ちがいいな、幸せだなって帰ってくる、それがほぼ毎回のレッスンで続くことですね。もう一つは、仕事や出産で一時期レッスンを離れた方が、しばらくしてから、「先生、まだやってたんですか」「先生、戻ってこれました!」って言いながら帰ってきてくださった時。仕事を続けていたことで再会ができて、ああ、やっていてよかったなと。卒業生の報告を聞く時も嬉しいですね。
中村 きっと後進の方々の励みになる言葉と思います。ありがとうございます。皆さんはこの先も仕事を続けられると思いますが、将来のご自身について、どのように考えていますか?
除村 生涯インストラクターでいたいと思っています。やり続けたい。続けられるための条件は自分の中で作っていかなければいけないですよね。
手嶋 AFAAに入りたての頃に、アメリカでは65歳のインストラクターが90歳代の人たちのクラスをもっているという話を聞いたことがあります。自分がありのままで出て行っても喜ばれる状況であるならば、何歳まででも続けたいですね。「痛々しいね」とか言われるようだったら考えますけれど。
秋野 私は死ぬまで現役でいたいかも。ヨガも教えているんですけれど、ヨガのワークショップで、おばあちゃんインストラクターさんが出てきて座禅を組む姿を見ると、これはいけるなと。そういうプログラムって、その人の人生の経験もにじみ出てくるじゃないですか。ズンバだったらゴールドがありますし、可愛いおばあちゃんになってもやりたいなって。
中村 皆さん、生涯インストラクターを続けていきたいと。ところで、「インストラクター」という名称ですが、トレーナーとインストラクターというのは皆さんの中ではどのような違いがありますか?
秋野 インストラクターはグループエクササイズなど一対多数の指導者で、トレーナーは一対一のパーソナル的な指導者、というイメージです。
手嶋 駆け出しの頃はグループエクササイズのエアロビックを提供していて、インストラクターと呼ばれていました。今、自分がもっているクラスは半分がグループエクササイズでインストラクター、病院のスタッフとして働く場合はトレーナーと呼ばれています。病院に勤めて23年になりますが、最初の面接の時に、院長先生に「ぼくはインストラクターではなくて、医療スタッフが欲しいんです」と言われました。それ以来、院長先生が私を紹介する時にはトレーナーですね。グループのマタニティエクササイズをトレーナーにお願いしている、と。一度、髪を茶色に染めたことがあったのですが、院長先生に顔をしかめられました(笑)。病院に勤めるのでネイルもしません。
私自身のなかでは、インストラクターもトレーナーも両方私、インストラクターとトレーナーって、社会通念上、一般の人たちがもっているイメージで分けられているだけ、という感じがします。
秋野 上の世代の人にしてみたら、インストラクターって「エアロビねえちゃん」ってイメージなんですよね(笑)。
除村 そうそう。それに、久しぶりに会った知人に「仕事、何してるの?」と聞かれて「インストラクター」よって答えると、「え、その歳でまだやってるの?」とか「いつまでやれる職業なの?」って言われます(笑)。
手嶋 フィットネスのインストラクターって、若くて元気なおねえちゃんってイメージがありますよね。「まだやってるの~すごい~」って言われると、気持ちがすみません、になるんですよ(笑)。
除村 上の世代の人にかぎらず、いまだにフィットネスインストラクターというと「エアロビねえちゃん、ワンツーワンツー」みたいな、ただの踊る人ってイメージがありますよね。パーソナルトレーナーだと「先生」と呼ばれて、すごいねって評価が普通にあるんですよ。
中村 インストラクターとトレーナー、グループか一対一かという場面上の区別があって、上下関係や優劣関係はない。でも、インストラクターは「エアロビねえちゃん」でトレーナーは「先生」になる、という社会での認識のされ方のギャップを感じているのですね。
秋野 どちらかというと、トレーナーの方が、かなり勉強をしないとクライアントさんに処方できないと思うんですね。ズンバは2日間の研修でインストラクターになれるけれど、2日でトレーナーになれるわけではない。インストラクターは専門的な知識がそれほどなくても、一対多数だからできちゃうじゃないですか。でも、どちらもピンきりだと思うんですよ。トップレベルではトレーナーもインストラクターも同じです。
ところで、私の教え子に、大学生のうちからズンバインストラクターの資格を取って、レッスンをもちながら活躍している男子がいます。でも、就職活動をして企業の内定をとって、普通の企業に就職すべきか、就職したら大好きなズンバができない、ズンバやりたいけれど、フィットネス業界でズンバインストラクターとして自立できるかな、将来結婚して家庭をもちたいけど、ズンバインストラクターとして食べていけるかな、って悩んでいるんですね。
手嶋 大手のクラブに勤めていても、40歳を過ぎて転職する男性は多いです。私たちの周りは成功してAFAA検定に携わる指導陣として成り立っている人たちが多いけれど、普通に養成クラスを出た男の子たちは、最初から正規雇用ではないし時給も低い、そんな現状がありますよね。
秋野 フィットネス業界を盛り上げるためにも、みんながこの業界に来ても自立できる、そういう道筋をつけることが私たちの使命だってつくづく思います。心配しないでおいでよ! って言いたいよね。迷わずフィットネス業界に行きたい、逆にフィットネス業界が高嶺の花になるようにしていきたいですよね。
中村 インストラクターの仕事が社会的な評価を高めて、経済的に自立できるような環境をつくりあげていく使命が皆さんにはある、ということですね。
中村 除村さんが先に、若い世代のインストラクターを育てる仕事も大切にしていきたいとおっしゃっていました。手嶋さんも秋野さんも同じ立場にいると思います。後進の人に向けて、仕事をするうえでこれだけは大切にして欲しいというメッセージをお願いします。
除村 長い間養成コースをもたせていただいているのですが、ひと昔前ですと、インストラクターやりたい、一流のインストラクターになりたい、そのためにはなんでもやりますって感じの人が多かったんですね。ところが最近は、「給料はいくらですか」「ライセンスを取って仕事がありますか」「仕事先を紹介してもらえますか」という質問の方が先なんですよ。
「養成コースを出た後に、インストラクターになれるかなれないかは、あなた次第なんですよ。どんな仕事でもそうですよね。まずはレッスンに来てみてください、会ってお話しましょう」ってお返事をすると、それっきり返事が来なくなるんです(笑)。フィットネスやエクササイズをやってみて、これなら私にもできそう、養成コースに行ってみようかな〜、「かな~」という人が増えたように思います。私はずっとやりたいことをやりたいようにしかやってこなかったんですが、そう考える時代になったのかなと。
これからインストラクターになる人は、インストラクターの仕事自体を楽しめる人であってほしいですね。好きなプログラムがあって、「大好きだからやりたい」という気持ちなら教えられると思うんです。儲かると思って習得したプログラムって意外にダメだったりしますよね。インストラクターは「好き」を仕事にしてもらいたいと思います。
秋野 少なくとも、お客様にケガをさせないための基礎的な知識はしっかり学ぼうよ、ってことですね。ズンバの場合、大好きって子たちがほぼ100パーセントで、2日間の研修でズンバインストラクターになれちゃう。どうしても勉強が足りないので、現場で、そんなやり方をしたらお客様がケガしちゃうよとハラハラする場面によく出くわします。楽しい、楽しいはいいけれど、最低限、ズンバが蓄積してきた安全で効果的なエクササイズを、自分で組み立ててお客様に提供できるスキルは身に付けてほしいですね。
もちろん、2日間の研修では時間が足りないし、ズンバの教え方には世界的な標準があるから、秋野のコースだけみっちり教えるということもできない。後付けでいいからAFAAのPCをしっかり取ろうよとは言っているんですけれど。幸い、JWIがズンバのイベントを担当する場合はPCをもっていなければできないというルールを作って下さったところです。今、日本のズンバインストラクター6000人の中でAFAAのPCをもっているのは1500人から2000人ぐらいですね。最初の2日間の講習でPCも後から取りたいと思ってもらえるような教え方を工夫しているところです。
手嶋 まずはお客様ありき、お客様が求めていることに向き合って献身的に頑張ろうということです。自分自身がきれいでいること自体も献身の一つ、お客様の喜ぶ場所に身を置けるって幸せって思えるようになって欲しいです。
もう一つは、どんな職業でもそうですが、プロフェッショナルをめざそうということです。少しずつ上を目指して頑張って練習を重ねていって欲しいです。一流のインストラクターには職人技というものがあります。以前、一流インストラクターの方に「私たちは右脳と左脳を同時に使っているんですよ」と教えていただいたことがあって、今でもこの言葉を宝物のように大切にしています。
秋野 十年ぐらい前、高橋教授というAFAAの顧問の先生に、「技術は銀、人柄は金。技術の前に人柄ですよ、そういう人にお客さんは集まって来るんです」と指導していただいたことがあります。技術の前に、人との会話や接し方ひとつひとつに真摯に向き合うって大事ですよね。
中村 インストラクターにとって何よりも大切なのは、グループ指導であれ個別指導であれ、お客様が求めていることにきちんと向き合って献身的に取り組む姿勢だということですね。正しい知識と技術をもって真摯にお客様に寄り添うことができるインストラクター、お客様から高く評価されるようなインストラクターがたくさん生まれてくれば、インストラクターの社会的評価も高まっていくことが期待できますね。皆さん、長時間ありがとうございました。(完)