コラム

2018.6.29 金曜日

Dr.カイボーの眼
第31回 “中山間地農業”から日本の食を考えてみる

田植え前の水が張られ、様々な形をした棚田の一枚一枚が単独で、また集合体として、オレンジ色の夕陽の光を反射して輝いている崇高な情景は素晴らしいものです。身体を通して(身)、感覚を通して(受)、そして心を通して(心)、マインドフルな瞬間は幸せに感じます。これを仏教用語では身受心と呼びます。

 

しかしながら、日本の原風景とも言えるこの棚田をはじめとした中山間地(ちゅうさんかんち)の農業に携わる人々の日々の営みの尊さまでは思いが及ばないことが多いです。自分の外の世界の現象のことを感じるのは修練を積まないと難しいものです。これを法と呼びます。

 

中山間地とは農業の地域区分で、平場、中間、山村の3地域のうちの中間と山村の総称です。日本の総農地面積の約4割を占め、主に女性と高齢者が農業を維持するために頑張っています。

 

中山間地の多くの農地は、平野部に比べて狭小で不整形です。傾斜地であるがための労力、例えば平場に比べて規模が小さい水源地域の保水能力の維持や平場より長い導水路の老朽化による漏水対策、平場より狭い農道整備や畦道補修などは機械が入りにくい場所も多くあります。かつ、水路の共同管理などは受益者が少ないため、平場の1.5倍以上かかる事業費をかけてまで、平場に比べて収穫量の少ない農地を維持するのは困難です。

 

その結果、耕作放棄地が増え、そうなるとその周辺水路の管理が悪くなり、下流地域に影響を及ぼします。そのことでさらに離農者が増え、地域の連帯感の欠乏が起こるとますます放棄地が増えるという悪循環。また、放棄地が増えることは水路などのハード面だけでなく、イノシシなどの有害鳥獣の問題も引き起こします。

 

私は瞑想やヨガのワークショップを中山間地で行うことがあります。参加者の皆さんはその場所の環境から得られる「癒し」や「パワー」を感じて満足されます。このように中山間の魅力を活かした取り組みをして、都市部との交流人口が増えることは中山間を元気にします。

 

山村を失うということは防災としての山林保全機能が弱くなるだけでなく、そこにある生活の知恵や人を育てるという教育の場所を失うことになり、日本全体にとって損失です。この国民の共有の財産を守っていくためには、中山間地の農業に携わる人だけでなく、地域の人や都市の人など多様な主体の関わりが求められています。私たちもその取り組みとしてフィットネスで中山間地との交流を考えるのも良いと思います。