2017.1.12 木曜日

スペシャル座談会 インストラクター&トレーナーストーリー
Story 1 「エビデンス」は必要か?


中村 ぼくは以前、新しい運動用具の開発に関わっていたことがあって、ジムであれこれブレインストーミングをしていた時に、あるインストラクターの方に「この運動にはエビデンスがあるのですか?」と聞かれたことがあります。「楽しく運動できるのならばそれでよいのではないでしょうか」とお答えしたところ、その方は「どんな効果があるのか、エビデンスがないと私たちは使えません」とおっしゃったんです。それ以来、フィットネスのインストラクターやトレーナーにとっての「エビデンス」とは? と問いかけてきたのですが、皆さん、指導者としてエビデンスをどうお考えになっているのか、お聞かせいただけますか。

秋野 私がエビデンス的な情報を交えてワークショップを始めたのは、20年ぐらい前に流行ったステップリーボックで、例えば25センチの台に乗って降りする時の一歩一歩の衝撃度が体重の何倍かなど、しっかりしたエビデンスがあるんですね。降りる足がいつも同じだと衝撃力が偏ってしまうから、衝撃力をバランスよく分散させた方がいいですよ、いつも右足で昇って右足で降りるステップを1回1時間、週に3回、3か月続けたらどうなりますか、降りる回数はワンレッスンの中で左右均等になるようにしましょうねという話につないでいくんです。ちょっとした数字を受講者の方たちにインフォメーションできるかどうかによって、運動に対する理解度も違ってくるんじゃないかな。そういうエビデンスは欲しいと思います。

中村 シナプソロジーはエビデンスがあると言われていますね。

秋野 シナプソロジーに出会ったのは4年ぐらい前ですが、自分自身で同じようなことは15,6年ぐらい前からやっていました。でもそれは、秋野が自分の経験と勘だけを頼りにシニアのお客様に提供してきたプログラムでした。シナプソロジーには、こういうプログラムでやると一時的な効果はこうで継続的な効果はこうで、というしっかりしたエビデンスがあります。インストラクターの方々に指導をする立場としては、秋野の経験と勘を頼りにつくったプログラムと、医学的にも体育科学的にもエビデンスのあるプログラムとでは説得力がぜんぜん違うんですね。私自身もこれまで考えながらやっていたことの裏付けが取れたという思いはありました。

手嶋 指導する立場としては、学問的に効果が検証されているという安心感を伝えることができます。以前、受講生から、シニアの方々にレッスンをする時に「年寄りにお遊戯をさせるのか」「子ども扱いしている」と言われたと相談されました。目的や効果が明白なら、その意味でエビデンスは拠り所になりますよね。

除村 私たちは昔からシナプソロジーのようなことを各自やっているんですよね。私も留学時代にセラピックレクリエーションを勉強して、それを生徒さんたちに教えていたことがあります。その後、シナプソロジーが入ってきてあっという間に広まった。新しいプログラムが日本に入る時って、日本人が好きなエビデンスがないと受け容れてもらえないってところもあったんじゃないかな(笑)。

中村 日本人はエビデンスが好きなんですかね(笑)。エビデンスがないからダメというわけではないけれども、エビデンスがあると説明しやすいし、説明を受ける側も納得しやすいと。

秋野 プログラムによるのかなと思います。ズンバのようなプログラムにはエビデンスなんて必要ないし。ズンバのトレーニングのマニュアルはたくさんありますが、エビデンス的な表現は一つもないですね。

中村 ズンバでは、エビデンスがないことについて誰も疑問に思わないんですか?

秋野 まったく疑問に思わないです。例えば強度もインターミディエットになるようにと言うぐらいで、心拍数とか運動強度の数値は出てこないんです。あるのは感覚だけ。ズンバはまず音楽ありきで、誰でもぱっと見てぱっと踊れるようなプログラムを提供していきます。音楽と動きの一体感が他のプログラム以上にあって、感覚で動いて楽しい、魂を揺さぶるんですね。ソウルフルなものだから、エビデンスの取りようがないんですよ。

手嶋 よく分かります。

除村 バレーや日本舞踊やダンスにもエビデンスはないですよね。ズンバはフィットネスから入ってきたけれども、フィットネスとダンスの中間にあって、両方のいいところをもらっているプログラムじゃないかなと思います。

中村 ズンバのように魂を揺さぶられるようなプログラムではエビデンスはいらない、まさに感じさせる。一方でシナプソロジーの場合、エビデンスというと皆が分かりやすい。それだけ魂に左右しないプログラムだということですか?

秋野 シナプソロジーに魂を揺さぶる効果は必要ないですよ。ノーミュージックですし。できないことに自分自身がおかしくてしょうがなくなる、できなくてげらげら笑うことが楽しい、それがシナプソロジーのよさじゃないかと思います。

手嶋 できなくてもよくて、できないことを楽しめるんですね。企業さんの講習会で、常務ができないのに若い社員はできちゃうってことがよくあるじゃないですか。普通だと気まずい雰囲気になるんですがけれど、「このプログラムはできないことがイエスなんですよ、できないことで得をしましたね」ってお伝えすれば、常務も若い社員もみなさん笑えるんです。

中村 シナプソロジーにはできないことが楽しいという仕かけがある。エビデンスがあるからいいプログラムだ、ということだけではないんですね。

手嶋 回数を重ねるうちにお客様の表情が変わってきて、それまでプログラムに積極的に参加しなかったような方が自らすすんでスタジオに入って来られるようになる、そういう目に見える変化をよく目にします。

除村 私は、これからは笑うことや楽しいことが心にも体にもいいという考え方が世の中に通るようになって、エビデンスがあるかどうかは必要なくなってくると思っているんですね。お客様が自分の体に耳を傾けてみて、自分の体に効く、心に効くと思えばそれがエビデンスになる、それが当たり前になってくる。皆さんそれぞれ顔が違うように、いろいろなエビデンスがあるのが当たり前の時代になって来るんじゃないかなって。

中村 そこですよね。指導する側のトレーナーやインストラクターがエビデンスを押し付けるのではなくて、“お客様に寄り添う姿勢”が何よりも大切、エビデンスはお客様自身の感じ方の中にあると。(つづく