コラム

2017.10.17 火曜日

Dr.カイボーの眼
第14回 出来ないことを楽しむ

「ズンバは楽しいですよ」と言うと「激しいしリズム感ないから。」

「ヨガは誰もがして良い運動ですよ」と言うと「身体固いから無理。」

「スロージョギングは体がきつくならない程度に出来るのでいいですよ」と言うと「いやぁ、走るのはちょっと苦手だな。」

「下半身の筋力が落ちるとロコモになるから、まずはスクワットからしましょうよ。ほら、こんな風に椅子から反動をつけずに立ったり座ったりだと安全でいいですよ」と言うと「続かないなぁ。すぐすることを忘れてしまうし。」

「腹式呼吸するだけでも運動になりますよ」と言うと「腹式呼吸できないんですよね(笑)」

 

フィットネスジムやサークルには運動する気のある方ばかりがいらっしゃるのでいいのですが、私のように診療の現場で、あるいは行政の健康増進の立場で、運動を日頃していない人、そして運動をする気のない人に運動を勧めるのは本当に大変です。

 

出来ないから運動した方がいいのですが、そのことを理解させるのは難しいですね。そのようなことに悩んでいる時に、シナプソロジーというものを知りました。「出来ないから良いのだ」との発想が素晴らしいと思いました。みなさん、出来ることをするのは好きなのですが出来ないことをするのは嫌いです。でも、出来ないことをする。しかも、“頑張っても出来ない時に脳が活性化するのだから、出来ないことを喜べば良い”という発想は、それまでの私の“出来ないことを努力して出来るようになることが身体の機能を良くすることにつながる”という感覚を180度変えるものでした。

 

このことをさらに深読み解釈すれば、ダンスやヨガでどんどん上達する人よりも、なかなか上達しないで頭を使い続けていらっしゃる人の方が脳には良い刺激になっているのかもしれませんね。そう理解すれば上手に出来ていない自分のことも認めることができます。

 

「フィットネスは上手にできなくていいんだよ。出来ないことを楽しみましょう」という空気が社会に醸成されると、「出来ないからしたくない」という人たちをフィットネスの場に引き出すことが今よりも容易になるでしょう。